2020年1月19日日曜日

1月25日「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」プログラム

◎クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり
日時 2020年1月25日(土)
   13時30分開演(12時開場)
会場 アート・カフェ・フレンズ
   http://www.artcafefriends.jp/
   (JR恵比寿駅西口下車徒歩2分)
チャージ 前売¥3,500 当日¥4,000
     ※お飲み物代500円を別途申し受けます。

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いよいよ「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」も来週に迫ってきました。「メロディを聴けばなんとなくわかるかもしれないと思うんだけど、題名だけだとわからないかも…」という20代の子のご意見を頂戴し、いつまでも若いつもりでいたけどそういえば本人の記憶がある僕は40代だった、と改めて思い出しましたので、ここで当日演奏する曲目をYou Tubeで拾った本人の動画で紹介したいと思います。

合わせて。ヒトコトで「クラシック風」と言っても幅が広うございます。主に僕がどんな風に考えどんな曲を参照しながら編曲したのか…ということを本番で喋ると喋るだけで時間が終わりそうな気がするので、ここに少し書いておきました。とは言え、それら参照にした曲もきっと「へ?」という感じだと思うので、頭半分で読んでいただいて構いません。

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  • 東京キッド
    • 藤浦洸/作詞 万城目正/作曲

  • 悲しき口笛
    • 藤浦洸/作詞 万城目正/作曲

『愛染かつら』の主題曲でもおなじみの作曲家・万城目正ですが、彼はモダニストです。特に、美空ひばりのために書いたこの2曲のメロディはたいへん同時代的です。終戦直後、1950年代前後の音楽として、全き意味において同時代的です。ヒンデミットの和声あたりがしっくりくるんじゃないかしら、と予想を立てたところ、僕の予想を超えるフィット感でした。

  • ひばりの佐渡情話
    • 西沢爽/作詞 船村徹/作曲

  • みだれ髪
    • 星野哲郎/作詞 船村徹/作曲

先年惜しくも亡くなられた船村徹先生。新聞の追悼記事中には生前の彼の言葉がいくつか載っていましたが、そこで語られていた彼の「ライバル」の存在は、揃いも揃ってドイツの作曲家ばかりで、やっぱりね、と僕は思ったのでした。船村徹のメロディは後期ドイツ・ロマン派の王道です。『佐渡情話』は特にR・シュトラウスの『4つの最後の歌 Vier letzte Lieder』を参照にしました。船村徹は彼女のファルセットを愛していただけあってメロディの音域が広く、生身のクラシックの歌手が歌うと大変技巧的な歌曲になります。

  • 車屋さん
    • 米山正夫/作詞・作曲

  • リンゴ追分
    • 小沢不二夫/作詞 米山正夫/作曲

  • 日和下駄
    • 米山正夫/作詞・作曲

  • 花笠道中
    • 米山正夫/作詞・作曲

米山正夫。不思議な作曲家です。メロディだけを取り出してよくよく観察するとロシア・フランスの流れを感じます。ムソルグスキーをサン=サーンスが持ち帰りドビュッシーとラヴェルが続いた感じがまたソビエトに還っていくという感じ。あの感じが戦後アメリカのビッグバンドでオーケストレーションされ、ときには都々逸も混じってくると。ちょっとあり得ない世界観です。

ただ、とある日本の作曲家の伝記を読んでいたところ、戦争中はラジオから『ペトルーシュカ』が流れていたという記述があって。僕の世代ではなかなかイメージがつかみにくいんですが、戦争に突入する前の大正末期~昭和初期の日本は、ちゃんと「同時代」やってるんですよね。そんな時代を呼吸していれば、米山正夫みたいな育ち方をするのも不思議じゃないかもしれません。

『車屋さん』はラヴェルの『5つのギリシャの歌 Cinq Mélodies Populaires Grecques』の第1曲『花嫁の目覚め Chanson de la mariée』を(結ばれる歌の伴奏で結ばれないおっちょこちょいなお嬢さんの歌を歌うのも面白いかと思いまして)、『日和下駄』は初期ショスタコーヴィチの歌曲『クリローフの2つの寓話 Две басни Крылова op.4』の2曲目『ろばとうぐいす Осел и соловей』を特に参照にしました。『花笠道中』はシャブリエ風にまとめてみようと試みたんですが、果たして成功しているのかどうか。

『リンゴ追分』は前回も取り上げましたが、少しアレンジを変えています。今回大変な挑戦をしました。「やっぱりおかしい」と言われたら「ですよね」としか答えようがないんですけど、この時代の歌謡曲の今日における編曲のあり方という問題提起という意味も込めまして。どんな風にしたのかは、当日までのお楽しみです。

  • 哀愁波止場
    • 石本美由起/作詞 船村徹/作曲

この銅鑼の音。完全にマーラー『大地の歌』とは思いませんか。

  • 悲しい酒
    • 石本美由起/作詞 古賀政男/作曲

    • 関沢新一/作詞 古賀政男/作曲

古賀政男のメロディの特徴は跳躍です。「勝つと思うな、思えば」と「負けよ」の間の下行長9度。こんな音程を軽々と書けるのはバッハとウェーベルンくらいです。という連想から、『悲しい酒』はバッハのアリア風にまとめました。意外とうまくいきました。『柔』はレーガー『素朴な歌 Schlichte Weisen op.76』から『53. Das Brüderchen』の和声を借りています。兵隊さんになった!という歌詞の勇ましい感じが合うと思いました。20世紀初頭でいちばんバッハっぽいことをバッハっぽくやった経験のある人、からの連想であります。

どうでもいいことですが「口で言うより手のほうが早い/馬鹿を相手の時じゃない」という歌詞。いつ聴いてもグッと来ます。こんな歌に満ちていた前回のオリンピックが羨ましい。

  • 津軽のふるさと
    • 米山正夫/作詞・作曲

この歌の編曲はクラシック専門インターネットラジオ・ottavaでも取り上げてくださいました。先述の通りロシア・フランスの流れを汲む米山正夫のメロディなので、元祖たる作曲家ムソルグスキーの『小さな星よ、おまえはいずこに Где ты звездочка?』の和声を用いました。この曲を弾くたびに自分のなかの何かが終わるので、練習に困ってます。

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…以上、編曲にあたっては万城目正、船村徹、米山正夫、古賀政男の4名の曲を選びました。みんな大好き『川の流れのように』のような曲は、どうしてもメロディの作り方が違うので、クラシックの技術ではうまく編曲できないのです。(当時も、あの美空ひばりがポップスを歌っている!という、意外性とともに受け入れられたと記憶しています。)子役時代から脂の乗った円熟期に至るまで。古い歌が並びますが、これらの編曲における僕の目標は「美空ひばりを知らない世代に、これらの作品そのものの価値を伝えること」であります。平成生まれの若い方もぜひおいでください。