2017年6月11日日曜日

ブルグミュラー・デスマッチ!

  2015年の年末ごろ、ふとした思いつきで編曲し、FacebookやTwitterで楽譜や動画をお披露目していたら数多くのピアノ弾きの皆々様からお問い合わせを頂きました「大人用ブルグミュラー」。この度、『ブルグミュラー・デスマッチ!』と改題して、芸術現代社より出版の運びとなりました。



 ヒトコトで言えば、「もしも、ブルグミュラーが大人用の練習曲として書かれていたら」。要するに、子ども用のピアノ曲を、すでに成熟したピアニストが改めて取り組めるようにした、そういう曲集です。収録曲は以下のとおり。

 ・ひばり(op.100-24)
 ・スティリアの女(op.100-14)
 ・バラード(op.100-15)
 ・貴婦人の乗馬(op.100-25)
 ・タランテラ(op.100-20)

 他にも何曲か編曲しているんですけれども、コンサートのプログラムに組み込みやすい曲集となるように、この5曲を選びました。それに、『アヴェ・マリア(op100-19)』なんかは、無理に技巧的にするのもおかしいですし、あれは編曲不能の美しさですものね。

 模範演奏になっていないかもしれませんが、僕自身が弾いた自編『スティリアの女』をYouTubeにアップしておりますので、どうぞご笑覧ください。


 なお、大人用に続いて演奏しているのは↓コチラ。
 この曲も、『ブルグミュラー・デスマッチ!』の付録として収録しております。余興としてお楽しみください。

 『ブルグミュラー・デスマッチ!』は6月6日より発売中。全国の楽譜店および芸術現代社のウェブサイトからもご購入いただけます。よろしくお願いします。

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 ◎あとがき

 もしも、ブルグミュラーが大人用の練習曲として書かれていたら。
 
 この『ブルグミュラー・デスマッチ!』をひとことで表すと、こうなります。充分に成長したピアニストが演奏会に使っても遜色ないもの、本気にならざるを得ないもの。そういう内容を持つ曲集として仕立てました。
 少なくとも私どもの年代くらいまでは、ピアノのレッスンといえば、まずバイエル。それからブルグミュラーを経由してツェルニーという道すじを辿ったものでした。率直に言って面白くはないバイエルという苦行のあとにやってきたブルグミュラーの、なんと楽しかったこと。『貴婦人の乗馬』が弾けたときの、なんと嬉しかったこと。練習曲とは思えない豊富な楽想に心をときめかせた方も多かったと思います。
 手の大きさという問題がありますから、こども用のピアノ曲には使える音程に「しばり」があります。作曲家は「しばり」があると、かえって何かやってやろうという気になるオトナげない動物です。私自身、こども用のピアノ曲を書いた経験から、ブルグミュラーの気持がちょっぴりわかります。彼の練習曲は練習曲の域を少しはみ出しているのです。私のこの編曲は、その「しばり」の向こう側で彼が感じていただろう音楽のよろこびを、少々誇張して、表現したものに過ぎません。

 演奏会用の小品集とするにおさまりの良い曲として、第24曲『つばめ』、第14曲『スティリアの女』、第15曲『バラード』、第25曲『貴婦人の乗馬』、第20曲『タランテラ』の5つを選びました。(『貴婦人の乗馬』が誤訳であることは広く承知されてきた昨今ではありますが、ここはあえて、私たちのノスタルジーのために、この誤訳を本題とします。)なぜこの順に並べたのかは、楽譜をご覧くださればご理解いただけるでしょう。
 全曲をアレンジすることも一度は考えましたが、第19曲『アヴェ・マリア』のような音楽は、もうそれ以上に足すことも引くこともできない美しさのため、無理やり「技巧的」な作品にするのはためらわれました。

 念のため『ブルグミュラー「25の練習曲 op.100」による5つの演奏会用小品』というマジメなタイトルも付してありますので、時と場合に応じて使い分けていただければ幸いです。また、巻末には付録として『内気な6歳の男の子が最初のレッスンに持ってきた「スティリアの女」』を収録しました。譜読みは面倒ですが、楽譜通りに弾けば弾くほど、かわいそうな子に見えてくる。そういうアレンジです。余興としてお楽しみください。

 この曲集の着想のきっかけを与えてくださったピアニスト・北住淳氏、音楽学・中村真氏、笠寺観音・吉川政春師、およそ楽譜の表紙とは思えない楽しい表紙を描いてくれた緒裡かえる氏、出版に際しご尽力くださった芸術現代社の東さつき氏に感謝申し上げます。

2017年4月25日
西澤健一