2020年3月28日土曜日

宮田文化庁長官メッセージを読んで

 2020年2月29日の総理会見で大規模イベント等の自粛が要請されて以来(何度見ても変な言葉です)ジャンルを問わず中止・延期・無観客開催の文字をSNS上で見かける機会が激増しました。なかには億単位の大変な負債を抱えることになったアーティストもいらっしゃる様子。幸か不幸か、僕は顔の割には地味に活動している作曲家なので、大きなマイナスを抱えることにはなっていませんが、とは言え、早くも5月あたりの本番が流れつつあります。

 先行きの不透明なウイルスとの戦い。悲痛な海外のニュースを読むかたわらで、コロナ対策お肉券だ、お魚券だ、という我が国の呑気な様子に、なかば絶望にも似たガッカリ感を抱く毎日ですが、今日の主題から外れてしまうので、ひとまずここまで。

 宮田亮平文化庁長官から「文化芸術に関わる全ての皆様へ」と題するメッセージが発表されました。本文に日付の記載が無いのはちょっといただけませんが、文化庁公式Twitterの更新によれば2020年3月27日付。以下、引用します。

* * *

 今般の新型コロナウイルス感染症の影響により、全国的な文化イベント等について中止、延期等の検討をお願いして1か月余りが経過しています。感染拡大防止の観点から、関係者の皆様の多大なご協力により、多くのイベントの開催を見送っていただいており、皆様の御対応に心から敬意を表し、また感謝申し上げます。 
 一方で、イベントの中止、延期により、活動の場を失い、辛い思いをされている方も多くいらっしゃると思います。日々、鍛錬を重ね、入念な準備をしてきたものを中止するというのは、いかほどの苦渋の選択であったのか、はかり知れません。また、生活にも大きな影響が出て、文化芸術活動をあきらめざるを得ない方も多数いらっしゃるということも伺っております。 
 芸術家としても生きてきた私の人生を振り返っても、過去に幾度となく、災害などで文化芸術活動の継続が困難となる事態に遭遇しました。一方で、困難に直面した人々に安らぎと勇気を与え、明日への希望を与えてくれたのもまた、文化芸術活動でした。この困難な時こそ、日本が活力を取り戻すために、文化芸術が必要だと信じています。 
 日本の文化芸術の灯を消してはなりません。
 
 この困難を乗り越え、ウイルスに打ち勝つために、文化庁長官として、私が先頭に立って、これまで以上に文化芸術への支援を行っていきたいと考えています。 
 明けない夜はありません! 今こそ私たちの文化の力を信じ、共に前に進みましょう。
文化庁長官 宮田亮平 

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 今のところ、おおむね、火に油を注ぐ結果となっているように見受けられます。
 僕の所感を述べますと、いったい文化庁長官という役職に何が出来るのかというそもそもの問題を感じます。権限が無いし、立場も弱い。それは、文化庁ではなく萩生田文科相の会見によって勃発した国際芸術祭あいちトリエンナーレ補助金問題で明らかになったとおり。(『文化庁、あいちトリエンナーレへの補助金不交付を発表 萩生田・文科相「相談あれば寄り添って対応していた」』HUFFPOST 2019年09月26日)

 とは言え、ドイツのように権限ある文化大臣を今から設けるのは無理ですし、なにより僕はちょっと勘弁願いたい。政治家上がりが文化相に就いた日には毎日『海道東征』みたいなのを聴かされないとも限らない。たまったもんじゃない。

 ただ、宮田長官は宮田長官なりの方法で補助金問題に抵抗していて、2019年10月15日の参院予算委で立憲民主党・福山哲郎委員の質問に対し「補助金不交付を見直す必要はない」と萩生田文科相の意向に沿う発言をしながらも、「私は(不交付を)決裁していない」とギリギリのラインを譲らなかった。(『トリエンナーレ補助金不交付問題 文化庁の歴史 踏みにじる行為』東京新聞2019年10月31日 朝刊)その上、今月に入って(世間が新型コロナウイルスにてんやわんやで忘れているスキを狙って、というのは僕の憶測ですが)全額不交付とした決定を撤回し、一部減額した上で交付する方針を決めました。(『あいちトリエンナーレの補助金、一部交付へ 文化庁が不交付の決定を撤回』HUFFPOST 2020年03月23日)

 おそらく、この23日の記事と合わせて読まないと、長官のメッセージの本当のところは吟味できないものと愚考いたします。

 宮田長官。僕もお会いしたことがありますが、芸術家出身の方なので良くも悪くも役人のニオイがしません。今の政府の一員として相当な気苦労をされているものと想像します。ペコペコと頭を下げながらも、面従腹背で、権限も立場も無いなりに、彼は彼なりに、なんとかしようと思っているだろうと想像します。ゆえに僕は(同情が勝ってしまって)世論の批判に同調できませんが、彼なりの方法が間に合うのかどうか、そこが心配です。

 折しも、毎日40人単位の感染者が発表され、そのうち経路不明が4割を占めるという現状。(『東京都 感染経路不明が4割 「外出は控えて」』NHK 2020年3月27日)借金で苦労したことのある人は複利で乗算されていく恐ろしさを知っているでしょう。そういう単位で、今後、新たな感染者が増えていくだろうことは避けられそうにない。従って、我々に必要な「自粛」の終わりも自然と先に伸びていくに違いありません。それよりなにより我々の命が危ない。そういう理解が必要です。

 安倍昭恵夫人がレストラン敷地内の桜の下で写真を撮っていたというニュースを読み、そこいらの乞食を自分の屋敷に上げ「人類みな兄弟」みたいなことを言いながら優雅な遊びに耽っていた足利義政を思い出しました。そうして日々遊んでいるうちに京都が戦に焼けていくという、応仁の乱。自然発火的で良く分からない戦争というニュアンスも少し似ている気がします。もし今回の新型コロナウイルスとの戦いが日本の歴史に同様の効果をもたらすなら、宗祇のような人が都から逃げて金沢あたりに庭を作ったように、東京の文化一極集中は地方に分散していくんじゃないか。そんな想像をしていますが、今はどうでもいいですね、すみません。

 ともかく、手洗いを忘れずに、生き延びましょう。密集を避けましょう。オクターヴ配置のVI度から5音高位V度密集への連結も、できれば避けてください。