◎ファゴット・ソナタ
op.103 Sonate pour Basson et Piano
Moderato
Allegretto
Adagietto - Allegro con brio
作曲年月 2018年5月
演奏時間 12分
楽器編成 ファゴット、ピアノ
委嘱 日本ダブルリード株式会社
初演 2019年3月・チューリヒ マティアス・ラッツ(ファゴット)アンネ・ヒンリヒセン(ピアノ)
日本初演 2019年4月・東京 ムジカーザ マティアス・ラッツ(ファゴット)山口佳代(ピアノ)
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◎プログラムノート 西澤健一
◆サン=サーンス ファゴット・ソナタ 作品168
2歳でピアノを弾き、3歳から作曲を始め「神童」とうたわれたサン=サーンスが86年の人生を閉じる1921年、その年に、彼はレパートリーに恵まれていない楽器のために6曲のソナタを書く計画を立てた。この計画は残念ながら寿命のためにオーボエ、クラリネット、そしてファゴットのためのソナタを書いたところで中絶してしまったが、残された3曲はいずれも、彼の望み通りに、これらの楽器のための重要なレパートリーとなっている。
6曲綴りの連作という形式はハイドンやモーツァルトのような古典派の作曲家を意識してのことだろう(6曲をまとめて出版していた当時の習慣に由来する)。ゆえに、古典派的と形容できそうな均整の取れた姿をしているものの、ロマン派のみならず、彼より先に来世へと旅立ってしまった後輩ドビュッシー以後の和声すら時折り顔を覗かせる。小節線をまたぐと十年二十年とタイムスリップしてしまうような筆跡だ。が、それらが決して断絶を起こすことなく、どこまでも滑らかに編まれているところに、彼最晩年の境地を見る。
第1楽章アレグロ・モデラート。第2楽章アレグロ・スケルツァンド。第3楽章、モルト・アダージョ―アレグロ・モデラート。
◆西澤健一 ファゴット・ソナタ(2018)
管楽器のためのソナタを書くとき、フランセやプーランクといったフランスの作曲家たちの成した仕事は、必ず振り返られなければならないものとして存在している。もちろんサン=サーンスはその始祖たるものだ。クラリネット・ソナタ(2013)を書いた当初、連作にする意図までは無かったものの、オーボエ・ソナタ(2015)に続き今回このファゴット・ソナタを書き上げたことによって、結果的に彼の後を追う格好になった。
まだ彼の半分の長さも生きていない私には自分の血肉として80年以上の歳月を感じることができない代わりに、時代的にも地理的にも、彼とはまったく異なる性質の世界を生きているということを生かさない手立てはない。西洋音楽が育んできた歴史を緯線に、非西洋地域の音楽の智慧を経線として、それらを古典的なフォルムのなかに「どこまでも滑らかに編む」ことを企図した。過去二作ではアラブ音楽や南インドの音楽を、ファゴット・ソナタでは私自身の住まう日本の音楽を用いている。ちょうど、このソナタの直前に大阪・船場言葉の台本によるオペラ『卍』(2017)を書いた経験も大きかったように思う。
第1楽章モデラート。第2楽章アレグレット。第3楽章アダージェット―アレグロ・コン・ブリオ。